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ドラマは最後に待っていた

2012年12月15日

圧倒的注目度を集めたWBCミドル級タイトルマッチ。かかっているベルトは問題ではなく、両者のネームバリューと積み重ねられた因縁が近年稀に見る ほどの話題を読んだ。両者とも相手への鬱憤と敵意を隠そうともしない。「スポーツマンシップ」という美しい言葉を棚上げし、「倒し合い」というボクシング の原点に立ち返るような、ある種異様な雰囲気がそこにはあった。メヒカーノとアルヘンティーノで埋め尽くされたトーマスマックセンターは歴代最高の入り。 会場ごと震えるような大歓声に包まれ、今年最大の試合が幕を開けた。

 

試合は序盤からセルヒオ・マルチネスがポイントを重ねた。華麗でスピーディな打ち回し、相手に的を絞らせない職人的フットワーク。大方の予想通りの立ち上がりとなったが、フリオ・セサール・チャベスJr.の ディフェンスも思ったより良い。時折ロープやコーナーに詰め重いパンチを見舞う場面も作る。はたして37才マルチネスのスタミナはどうなのか? だがそん な心配は無用とばかりにマルチネスが尻上がりに調子を上げていく。チャベスの強打は単発でポイントを得るには至らない。ついにはチャベスが鼻血を吹き出し 明白に動きを鈍らせる。

もはや大勢は決した。11Rにはチャベスの重いコンビが打ち込まれたがセルヒオは即座に連打で応戦し流れを渡さない。最終ラウンド、もはや残すはアルゼンチンの英雄のウイニングランのみ。

だが。

しかし。

ドラマはここで待っていた。

チャベスの右の一発。歴戦の雄がよろめき、ロープに後退する。そこで打ち込まれた左フックが致命傷となった。体を失ったマルチネスは、更に左をフォローされ勢い良く倒れる。完全なノックダウン。効いている。尋常でなく効いている。

こ の瞬間トーマスマックセンターは会場ごと吹き飛ばんとばかりに沸騰した。なんとか立ち上がり続行に応じるセルヒオだが、残り時間は軽く一分以上。長い。こ こで名誉王者はあろうことかクリンチなどによる逃げ切りではなく打ち合いを選択したのだ。まさに男の中の男。類まれなる闘志。

だがこの時点 で残っている体力には歴然とした差があった。チャベスの猛攻を受け再びマルチネスが地面に転がる。判定はスリップだが、止められてもおかしくないほどのダ メージが見て取れる。ここでもあくまで反撃しようとし続けたセルヒオの闘志はどれほどのものなのか。ついに彼は試合終了のゴングまで耐え抜き、大差の判定 で勝利を得た。

 

あまりにも劇的な最終ラウンドだった。もし逆転KOが実現していれば、22年前チャベス父がメルドリック・テイラーをラスト2秒でストップした試合に並び称されるボクシング史上屈指の大逆転劇として歴史に刻まれていただろう。

もしあと一ラウンドあればセルヒオの逃げ切りは不可能だったと思われる。彼は最初のダウンで右膝を痛めていたのだ。しかしこれは十二回戦。決定機が遅すぎたのも含めてこれが現時点でのチャベスの実力だ。マルチネスのほうが、優れていた。

 

では最終回のドラマは単なる「ラッキーパンチ」によるものだったのだろうか? セルヒオの油断と偶然とが重なって、圧倒的格下に危うくやられそうだったというだけの話だったのだろうか? そのような声も多いが、僕はそうは思わない。

な ぜなら最初からこのような逆転がチャベス陣営の描いたプランだったからだ。ポイントの取り合いを捨て、ボディーで痛めつけ、後半の失速につけ込みKOす る。誰もが彼はそれを狙うとわかっていたし、実際にそうした。事実チャベスの強打は序盤からしばしばマルチネスの急所を捉え、マルチネスは普段以上にスタ ミナを消耗し顔を腫れさせ出血もした。それを不利と感じさせないほど巧みに立ち回り優位を保ち続けたのはセルヒオが超一流だからだが、表面上の華麗さとは 裏腹に彼もまた必死だったのだ。最終回、わずか数発のクリーンヒットで絶大なダメージを受けてしまったのはそれだけ体力を消耗していたからであり、そうさ せたのはチャベスだ。

チャベスは強い。技術的に拙くとも体全体に馬力、圧力がみなぎっていてそのパンチは重く芯に響く。失速したと思ったらまた息を吹き返す謎めいたスタミナと理不尽なまでのタフネス。パッと見の冴えない印象とは裏腹にとてつもなく厄介なファイターだ。

だがその上でマルチネスは勝利をもぎ取った。とことん偉大な男だ。心技体全てが最高のレベルで揃っていてケチのつけようがない。結果的にも内容的にも、セルヒオ・マルチネスの勝利に疑いの余地はない。

た だしボクシングは倒し合いとポイントゲームの二重構造であり、かつ倒し合いがより上位に来る仕組みになっている。早い話が12ラウンド中11.5ラウンド を支配していてもラスト0.5ラウンドでKOされれば全てパアという理不尽な世界だ。チャベスがやったことは単に最終回にちょっと見せ場を作ったというだ けのあだ花ではない。ここは強調しておく必要がある。ともかく素晴らしい試合だった。

 

さてリマッチはあるのだろうか。この 試合の商業的価値を思えば、あると考えるほうが自然だろう。ただダイレクトリマッチだとまたセルヒオの優位は動かないし、時間的にもやや可能性が低いので はと感じる。セルヒオは右膝の負傷に関して手術を受ける必要があるらしく、リング復帰はしばらく先になるからだ。

チャベス陣営としてはそれを待つより先に一戦挟んだほうがいろんな意味でいいだろう。その出来如何ではオッズがさらに接近する可能性もある。マルチネスに似たサウスポーが見つかればベストだが、負けてかえって商品価値を上げた今のチャベスなら誰とやっても大興行が打てる。

この試合最大の勝者は我々ファン、そしてこれによって大きく潤うボクシング業界なのかもしれない。

 

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