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モナコで、そしてメキシコで:彼らが頂点に挑んだ日

2013年4月1日

とかく日本人ボクサーは引きこもりだと揶揄される。挑戦も防衛も国内ばかりで、本当の強敵とは戦わず、世界のメインストリームから外れた所で「世界王者」を名乗っていると。もちろんそうなるのには経済的に正しい理由がある。勝ち目の乏しいリスキーな戦いに挑むより、バックアップの豊富な国内でやったほうがお金も稼げるし知名度も上がる。それは完全に事実だ。しかし僕は単なるいちボクシングファンである。僕は「大人の事情」をつらつらと述べて「だから仕方がないよね」と皮肉っぽく笑うようなスレた識者にはなりたくない。僕はいつだって「自分はこれが見たい」「こんな現実はクソだ」ということを素直に喋ることのできるおめでたいファンでいたい。

そんなワガママな願いを叶えてくれる男達がいる。日本という恵まれたホームを投げうって、敵地だろうがどこだろうが果敢に強敵に挑戦し、いつだって全身全霊の戦いを繰り広げる、そんな彼らをどうして尊敬しないことが出来るだろうか。2013年3月30日、二人の男が遠く離れた異国の地で、奇しくも同じ日に運命の一戦に臨んだ。

 

石田順裕はモナコで散った。それはもう、言い訳の余地の欠片もないような完全無欠の完敗だった。王者ゲナディ・“GGG”・ゴロフキンはただただ強かった。僕らはあの怪物のような男こそを王者と呼び、その怪物に真っ向挑んでいった石田のような男を挑戦者と呼ぶのだ。

ゴロフキンのあの異常な強さの礎はどこにあるのだろう。まずなんといってもパンチが強い。パンチの強さを表す言葉には重いとか硬いとか切れるとか色々あるが、ゴロフキンの場合はただただ強い。ここぞという場面で振ってくる一撃をまともに食らえば、人間である限り倒れる。必ず倒れる。普通この手の強打者はパワー偏重の荒いボクシングになってしまいがちだが、ゴロフキンには五輪銀メダルという肩書きにふさわしい技術がある。何よりもあのジャブ! 常に先手先手で相手の顔面をきっちり捉える、そのシャープで的確なことといったら! 身長で勝るテクニシャン石田がジャブ一本で完全に距離とリズムを制圧されてしまうのだから尋常ではない。どっしりと安定した重心には堅実なフットワークが備わり、インファイトでも長距離でも不利なポジションには決してとどまらず、鋭く凶暴なコンビネーションが打ち込む先を見失うことはない。神様は不公平だ。

そんな怪物を相手に石田が選択したのは真正面に立っての打撃戦だった。無謀は承知。むしろ距離を取ろうとすればこれまで散っていった死屍累々の後に続くだけだという決意を胸に自ら攻めた。それによってGGGのリズムを崩せればポイントで先行できるという目論見だ。石田にはプロアマ通じてダウンなしというタフネスへの自信もあった。並の王者ならあるいは本当に崩せたかもしれない。しかし相手は遥かな頂きにいた。第三ラウンド、右の一撃。石田は垂直に落下し、過酷な戦いは終わった。

石田は試合前、負ければ引退を公言していた。その通りになるのかはまだわからないし、憶測を並べるべきではない。今はただ、ありがとう、お疲れ様でしたと言いたい。

 

石田がそうするより更に前、野望のために日本を飛び出したボクサーがいる。石田のライセンスが再発行された今もなお日本ボクシングコミッションから絶縁されている男、高山勝成。前王者ジョイとの悔やみきれない二戦を経て、高山は新王者マリオ・ロドリゲスに敵地メキシコで挑んだ。ロドリゲスの王者としてのレベル、格はゴロフキンに比べれば明らかに落ちる。超一流の相手とは言い難い。それでもロドリゲスは難攻不落と恐れられたジョイからKOでタイトルを奪った文句なしの現役王者。その相手に完全なるアウェーで挑戦するということの難度は尋常ではない。まして高山にはジャッジを用無しに出来る決定力がどうしても欠けている。挑戦者不利の下馬評は当然だった。

僕はこの試合をちゃんと見れたわけではない。ネット観戦できたのは後半のみ、それもクリーンヒットの判別が困難なほどの低画質で、優勢かどうかもよくわからなかった。だけど高山がいかにこの一戦に賭けているか、その決意の強さとコンディションの良さは大いに感じ取ることが出来た。軽快でアクティブなアウトボクシング。一発は軽くとも連打の回転とヒット数では絶対に負けないというのが高山の勝ち方だ。試合終盤は攻め続ける王者とそれを受けて立つ高山との間で一歩も引かぬ打撃戦が展開され、試合終了とともに両者が勝利を確信しているかのような喜びを見せた。正直言って、この互角に近い内容(あの画質ではそう見えた)で敵地での判定勝利は難しいだろうと思った。きっと高山はまた判定に泣かされるんだ。そう思った。

はたしてジャッジは三者一致で東洋の挑戦者を支持した。信じられないという顔の前王者ロドリゲス。高山応援で見てるこっちもビックリだよ!

この際スコアの詳細とかそういうのはどうでもいい。良くはないけど、とにかく彼はとてつもないことをやってのけた。これで彼は日本人の海外挑戦連続失敗記録を約40戦で止めたことに――なるんだろうか? いや、僕らファンの中では間違いなくそうなる。ただし高山はJBCのライセンスを保有しておらず、JBCは高山が勝っても彼を「日本の世界王者」として認めないことを明言している。まったくもってナンセンスな話だが、とにかくそういうことになっている。はたして高山の防衛戦はどこで行われるのだろうか? いやそれも気の早い話、今言うべきはおめでとうの一言だろう。

 

彼らが頂点に挑んだ日、それは忘れられない一日になった。

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