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達人の証明 ドネアvsリゴンドー決着

2013年4月14日

判定はユナニマスながらも僅差。それでも実質上は一方的な展開だった。ノニト・ドネア。あまたの強敵をその類まれなる才能と閃きで蹴散らしてきたあの“フィリピーノ・フラッシュ”が完敗を喫したのだ。

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序盤戦の緊張感は近年最高峰とも言えるものだった。アマチュア王国キューバの最高傑作と称されるギジェルモ・リゴンドーの、相変わらず幻想じみた身のこなしに対し、ドネアも文字通り閃光のようなスピードブローで襲い掛かる。いつどちらが切り落とされてもおかしくない、剣豪同士の切り結びがそこにあった。そしてその火花の中で一歩先んじたのが“エル・チャカル”だ。あたかもドネアの瞬速が全て前もって見えているかのような予言者級回避力。下手な攻撃は全てカウンターで迎撃すると言わんばかりの左右の精密射撃。一秒たりとも不利なポジションを保たない流水のような足さばき。あらゆる無駄をそぎ落とし、ただ純粋に「ボクシングで勝つ」ためだけに磨きぬいた名匠の芸術品のような技術でもってドネアの自由奔放な持ち味を封殺してみせる。

ラウンドが進むごとにドネアのビッグショットが当たる気配が消え失せ、それに伴い双方の手数が減って観客からはブーイングが飛び始める。そんな中ではっきりとゲームを支配していたのがリゴンドーだった。脚を使いながらドネアの打つ手を封じ込め、要所要所で印象的なクリーンヒットを重ねて主導権を決して渡さない。僅差のラウンドを振り分けるリング・ジェネラルシップとはなんだろう。それは「どちらが自分のやりたいことをやっているか」「どちらがリングの中のボスでいるのか」そして「自分ならどちらの立場でありたいか」ということだ。その点においてリゴンドーの優位は終始揺るがなかった。

ドネアは元々「一見すると無駄な動き」が多い選手だ。もちろんそれは単に無駄なのではなく、多彩なアクションの中にフェイントや予備動作を混ぜ合わせることで相手を幻惑し好機を作り出す効果がある。また同時にファンを沸かせるためのギミックでもある。しかしリゴンドーにだけはそれが通用しなかった。というより試みることすらできなかった。一瞬でも隙があれば即やられる。その予感をはっきりと自覚させられる相手を前にして、ドネアは本来の奔放さを全く出せない状態を強制されていった。

それでも第10ラウンドにダウンを奪ったフィリピーノ・フラッシュの意地と切れ味はさすがとしか言いようが無い。リゴンドーにはここに来てやや気の緩みらしきものが見え、クリンチ際で一瞬無防備をさらけ出すことになった。しかしダメージ自体は軽微なもの。逆に気を引き締め直してラウンド後半には早くもペースを奪回し、残る二ラウンドを完璧にキープして勝利を確定づけてみせた。特に最終ラウンドはリゴンドーのビッグレフトでドネアの右目が腫れ上がり、恐らくは眼球そのものにダメージがあったのだろう、以降は右腕をガードに貼りつけたまま一方的に打ち込まれKO負けの可能性すら感じさせた。

公式採点は114-113、115-112、116-111でリゴンドーを支持。個人的には116-111か117-110。1ポイント差はいささか僅差すぎるとは思うが、とにもかくにも勝つべき男が勝利した。

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それにしてもリゴンドーの卓越したパフォーマンスには脱帽するしかない。まさに達人の証明だ。今日の試合は彼にとってのマスターピースであり、今後も伝説のテクニカル・ファイトとして長く鑑賞の対象になっていくだろう。こういう静かな攻防を好まないファンも大勢いることは確かだし、はっきり言って一般人には退屈すぎるし、リゴンドーがグローバル・スーパースターになることは今後も決してないだろう。しかしマニアや競技者全てにとって、ありがた~い名作古典のような試合が生まれたと言える。

「ボクシングを知る者ならこれが素晴らしい試合だったと理解できるだろう。私が彼をああいう風に(悪く)見せたんだ。今日の私は素晴らしかった。彼は(試合中うまくいかないことに)いらだっていた。一発のビッグショットだけで試合に勝つことはできないんだ」

敗れたドネアにとっては悔やんでも悔やみきれない敗戦になってしまった。このような技術戦ではっきり上を行かれるのは、交通事故のような一発で敗れるよりよほどこたえるはずだ。本人曰く敗因として研究不足と練習中の肩の不調が挙げられるとのこと。どうあれ完敗を認めた。彼が結果的に倒されなかった理由はリゴンドーの手数が少なかったことに加えて体格差があったと思われる。今回当日計量はなかったそうだが、恐らく7、8ポンドは違ったのではないだろうか。見た目からはとてもそう思えないがドネアはこの階級でも減量苦らしく、次戦でフェザーに上げる気持ちもあるようだ。恐らくリゴンドー以外の相手であればまだまだ天才ぶりを見せつけることが出来るはずだが、フェザー以上ではパワーの壁を感じることになるかもしれない。ともあれ彼が超一流のボクサーであることは変わらない。ゆっくり休んでまた陽気に戦ってほしいものだ。

大勝利のリゴンドーだが、大衆を熱狂させるような存在になる可能性は今までもこれからも一切ない。静かすぎる。地味すぎる。しかし彼にとってそんなことはどうでもいいのだろう。これからもギジェルモ・リゴンドーはギジェルモ・リゴンドーであり続ける。それが達人の有様というものなのかもしれない。

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10件のコメント
  1. 黒猫 permalink

     はじめまして。
     先ほど見終わったばかりなのですが、息を呑むような素晴らしい技術が見られる、素晴らしい試合でした。特に最初の三ラウンドの出来は、ジーコさんのおっしゃるとおり、近年のボクシングの最高峰と言って良いと思います。
     それにしても、リゴンドーはまだまだ底を見せていないように思われます。彼が持てる能力の全てをさらけ出すような、そんな試合をいつか観てみたいものです。

    • リゴンドーの底、今のところちょっと想像がつかないですね。と言ってもドネアが西岡に勝った時も同じようなことを思ったので、意外にあっさり見れる日が来るかもしれません……?

  2. 匿名 permalink

    これを見てリゴンドーが嫌いだとか逃げだとか言う人は、ちょっと・・・と思う。でも個人の感想なんだから構わない。ただそこからボクシングの未来がどうのこうの言うのは違和感

    • みんながこれをやりだしたら確かに問題ですけど、どうせやるわけないし出来るわけもないしで全然心配してませんねえ。むしろ最近面白い試合が多すぎて困るぐらいですよ。

  3. 匿名 permalink

    ドネアも超一流と見てましたがリゴンドーはちょっと異常でしたね、ディフェンスもステップも早いしパンチも的確に当てる。この階級じゃ相手がいないでしょう

    • うーん、別にこの階級のレベルが低いわけじゃないとはいえ……マセブラが目一杯リーチを活かして外からペチペチと……無理か。

  4. 匿名 permalink

    リゴンドーのボクシングスキルは少し異質です。
    ジーコさんが仰られるように、完成されすぎている感があります。粗さというのがなく
    言ってみれば同じ事の繰り返し、のように見えます。
    ですがその完成度の高さだけで十分「面白い」と思える域に達している、唯一のボクサーだと思います。
    ウォードは強いですが、どうしても「強いだけ」と思えてしまいます。
    リゴンドーは特殊で、その「強いだけ」「完成されてるだけ」の度合いがあまりにも高いがゆえに
    価値があるようなものじゃないでしょうか。ウォードみたいなダーティなテクもめったにないですしね。

    しかし、この結果には驚きました。
    ドネアに対抗できうる選手だとは確信してましたが、リゴンドー贔屓の私もそれくらいの評価止まりでした。
    リゴンドー、半端じゃないですね。もはや”芸”の域にさえ達してるようでした。

    よく、「クリチコやメイウェザーの試合はつまらない。」だとかいう声が聞こえますが、
    ドネア相手にこの試合をできる、というその事実自体に、
    また、ドネアを完封できるテクニック自体に、面白みを見いだせないボクシングファンは
    少し可哀想に感じてしまいますね。

    • 相手がAで来たらBで応じる。Cで来たらDで返す。それが一流というものですが、リゴンドーはAが来ようがBやCやDが来ようが全部同じ対応。それで強いんだから手が付けれれませんね。
      このボクシングがつまらないと感じるのは、僕はもうしょうがないし、それで良いと思います。まさかボクシング素人の友人に名勝負を一つ勧める時にこの試合を挙げる人はいないでしょう。好きな人が好きでいればそれで良いと本人も思ってるんじゃないですかね。

  5. カリメロ permalink

    なかなかおもしろい解説でした。お互いダメージングブローは少なかったですが(ドネアの顔はかなり腫れていたけど、まさに管理人さんがいうようにどちらが自分本来のペースを握った試合を進めることができているのかを僕も感じながらTV画面を見てました。リゴンドーはこれからもリゴンドーらしくいくというのも同意します。

    • リゴンドーがいきなりガッティ化したら世界の七不思議になってしまいますね(^_^;)

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