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スウィート・サイエンス:メイウェザーvsカネロ レビュー

2013年9月15日

メイウェザーの強さ、上手さ、凄さは誰もが知っている。戦う相手が昇竜のニュースターカネロ・アルバレスであっても“マネー”メイウェザーが有利であることに疑いの余地はなかった。それでもここまで完璧で、甘美で、優雅なパフォーマンスを今日見ることになると予想した者がどれほどいただろうか? 一人奇妙なジャッジがいたおかげでマジョリティデシジョンというおかしな結果になってしまったが、現実のリングではフロイド・メイウェザーが完全なる勝利。12ラウンドを通じてメヒコの若武者に大きなチャンスが訪れることはついになかった。45戦全勝。現代の生ける伝説が、その誉れ高き軌跡にまた新たな一章を加えてみせた。

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スタッツを見てみよう。メイウェザーは試合を通じて505発中232発を的中させ、一方カネロのヒットは526発中117発にとどまった。その上でメイウェザーのほうがより鮮やかに、インプレッシブにダメージを与えていたのだから勝敗は大火事を見るより明らかだ。しかもフロイドは一般的な速い、巧いというイメージでは計り知れないほどのパワーとタフネスを有している。当日体重はカネロ165ポンド、メイ150ポンド。この体格差がありながらメキシカンヒーローの危険極まりないレバーブローを食っても動じず、逆にクイックなショートパンチで15ポンドも重い若武者の顎を跳ねあげていた有り様はつくづく超人的だ。

ただしひとつ押さえておかなければならないことがある。メイウェザーが完璧に見えたのは決して相手が弱かったからでも不甲斐なかったからでもない。カネロは大いに力強くスピーディでそして勇敢だった。並の一流なら今日の完璧なるメイウェザーを前にすれば序盤で手が縮こまりサンドバッグになっていただろうに、諦めることなくあらゆる手を尽くして戦い続けた。その戦力ははっきりと世界トップクラスだったと言っておきたい。そして、だからこそ超天才の凄みが一層際立つことになったのだと。

思い出してみてほしい。近年のメイには徐々にではあるがはっきりと年齢の影が差しつつあった。いかに速くともかつてのような光速ではない。かつてほど完璧なディフェンスはできない。そう遠くない将来、いよいよ彼にも“その時”が来るだろうと多くの人が予感していたのではないか。この試合でカネロ勝利を予想した人々――僕も含めて――は、まさに今が“その時”なのではと感じていたはずだ。

ところがどっこい、蓋を開けてみればそこにいたのは他ならぬ全盛期のフロイド・メイウェザーだった。あまりに速く、あまりに巧く、あまりに完璧だった。カネロがしぶとく抵抗すればするほど、それを優雅に封じ込めるメイウェザーの素晴らしさがますます輝いた。それは、まさしく芸術だった。

Boxing: Floyd Mayweather vs Canelo Alvarez

ボクシングには無数の顔がある。ビジネスであるということ。ルールのあるスポーツであるということ。野蛮な暴力であるということ。観客にとってはお気楽な娯楽であるということ。そんな中で昔から使われ続けてきた表現がある。Sweet Science。甘く、鮮烈なる科学。遡ること19世紀の初めにとある英国のジャーナリストが使ったこの言葉は、ゲームのルールが全く様変わりした現代においても揺らぐことなく拳闘の代名詞で在り続けている。暴力的で肉体的であると同時に頭脳的で芸術的でもあるこのスポーツの彩りをこれ程見事に形容した言葉は今なお存在しない。

そしてフロイド・メイウェザーこそ現代においてこの言葉に最もふさわしい存在だということが今日改めて証明された。技術的な頂点という意味ではギジェルモ・リゴンドーとて負けてはいないが、彼には致命的なまでにスターとしての華と攻撃性が欠けている。これはもう仕方がない。それが彼の持ち味だ。

36歳のフロイドはスターとして生まれ、スターとして生きている。そしてこれからもスウィート・サイエンスの象徴で在り続けるだろう。そのことをまざまざと実感させられた36分間だった。

Floyd Mayweather Jr. v Canelo Alvarez

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6件のコメント
  1. KOKO permalink

    メイウェザーは戦前「オレは今がピークだぜ」的なことをいっておりました。こういった発言は多分にハッタリも含まれていると思われるのが常ですが、普通に言葉通りだったという・・・・・・規格外の人、改めて思います。
    結局、まだまだ衰えてはなかったということを証明してしまいましたね。過去最高齢の状態で、近年最高のパフォーマンスだったわけですから、しかもデカくて速いアルバレス相手に・・・・
    152まで落としたせいもあったでしょうが、アルバレスもメイウェザー相手ということでスピード重視なのか、当日ほどほどの増量で抑えてましたね。確かトラウト戦のときは170以上あったような。
    それも、試合前の『作戦』も、全部通用しないことを思い知らされてしまいました。

    このあと誰と戦うんでしょうね、彼は。実績や肩書きで言えば、パッキャオに勝利、無敗、ウェルター級チャンピオンのブラッドリーなんか筆頭候補なんでしょうけど、需要なさそう(笑)
    そもそも、ザックリ言えばメイと似たようなタイプで、全てにおいて見劣りするから、勝ち目がなさそうですし。パンチャーであることは絶対条件ですよね、メイウェザーとやる選手は。

    本題と関係ないですが、アルバレスって本名の『サウル』よりニックネームの『カネロ』のほうが圧倒的に有名になっちゃって・・・アナウンサーとかも”Canero Albarez”て言っちゃってるし、試合の画面表示すら”Canero Albarez”になっちゃってるし(笑)
    僕も20年以上ボクシング見てるんですが、こんな選手ちょっと思い当たりません。過去にこんなふうに『本名よりニックネームの方が突出して有名な選手』って誰かいましたっけ?

    • うーん、レイ・ロビンソン然り本名と全然違うリングネームを使用してるボクサーは多いですが、カネロの場合リングネームだって「サウル・アルバレス」のはずなのにその名前がどっか行っちゃってるというのはかなりのレアケースですよね。
      ひょっとしたら僕らが知らない間にコミッションに登録されているリングネームが「カネロ・アルバレス」に変わっていたのかもしれません???

  2. CAMARO permalink

    カネロが普通のボクサーに見える位に差がありましたね。
    ちょっと凄すぎてコメントが難しいです(笑)

    • うーんカネロも随所に素晴らしい動きを見せてはいたんですがね。
      あのB−HOPがメイウェザーはレイ・ロビンソン、モハメド・アリに続く歴代3位のグレートと評したそうですが、いよいよそういう議論の対象になってきたということなのかもしれません。

  3. permalink

    カネロの小差判定勝ちと予想してましたが、大外れでした。
    メイは完璧に仕上げてきましたね。カネロが無策で平凡なボクサーに見えてしまいました・・。

    カネロも特別なプランを用意してきたのだとは思います。だって相手はあのメイウェザーですから。
    過去にメイの前に散っていった人たちの試合を研究し、ケーススタディしてきたのでしょう。

    でも実際にやってみると、なんてことはない、いつものメイウェザーの試合でした。
    プランを実行させない強さがメイにはあるのでしょうね。
    リゴンドー、ウォード、クリチコも通じる所があります。相手の強さを引き出した上で真っ向勝負でねじ伏せる
    ファイターもいれば、そうでない者ももいる。現代のボクシングの絶対王者は後者でしょうね。

    試合がはじまって序盤に、カネロを見て「おいおい、そんな普通にボクシングしてたらメイに勝てる人間はいないよ、何してんだ、作戦はどこいったんだ・・」と
    つぶやいてしまいましたが、そんなボクシングしかさせないのがメイの強みなんでしょうね。

    メイに勝つにはスピード、技術、この2つがメイと同じくらいにないと厳しいのでしょうね。
    リゴンドーがもう少し大きければ、どうなっていたか見てみたかったです。

    • メイのコンディションは驚きでした。まさか36歳の今になって過去最高級のパフォーマンスを見せてくれるとは。
      彼に勝つには……うーん、ゴロフキンぐらい圧倒的なパワーと体格の利があれば、とは思いますけどさすがに受けないでしょうし、受けないことを批判することもできませんしね。
      リゴンドーとの技術力比較となるととても僕の手には負えないので他の方にお任せします(笑)

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