コンテンツへスキップ

マルケスvsブラッドリー レビューと雑感

2013年10月14日

「パッキャオを破った男」二人の激突。力量は互角、実績と下馬評はマルケスながら、実際のリングの上では残酷なまでの相性の差が出ることとなった。

bradley-marquez (16)マルケスがペースらしきものを握っていたのは初回のみ。以降はほぼ全ての時間ブラッドリーが優位を保ったまま試合は進んだ。個々のラウンドはその多くが競っており、マルケスに幾らかのポイントが流れたのも当然だが、逆に言えばマルケスが取ったラウンドは微差の内容でかろうじて攻勢点を評価されたというものがほとんど。盤石のディフェンスを保ち多くのジャブをヒットさせ、与えたダメージでも明白に上回った“デザート・ストーム”の勝利に疑いの余地はない。マルケスに115-113をつけたジャッジはよほどアウトボクサーが嫌いだったのだろう。個人的には117-111で王者の防衛を支持。

マルケスの弱み

結果論ではあるが、マルケスはこの日のブラッドリーに対応できる引き出しを持ち合わせていなかった。近年のキャリアを振り返ってみればマルケスがスピード型のスリックな黒人ボクサーに勝利したのは08年のカサマヨル戦が最後。もちろんこの時のカサマヨルはとうにピークを過ぎていた。その前となると03年のゲイナー戦までさかのぼらなければならない。そもそもマルケスはこのタイプとの対戦自体が非常に少なく、例外であるメイウェザー戦では今回以上の完敗を喫している。

マルケスはカウンターの名手であり、相手がいくら速くともそこにビッグショットを合わせるだけの能力を持っている。ただしそこにはどっしりと構えた自分に対し相手が自ら攻めてくる時、という条件がつく。パッキャオ第四戦のフィニッシュショットはこの世にボクシングがある限り語り継がれる伝説的一撃ではあるが、あれはパッキャオの超攻撃的な姿勢があって初めて実現したものだ。ブラッドリーは決してあのような一発を打たせてはくれなかった。それどころかこの日のマルケスは序盤のうちから手詰まり感さえ感じさせた。前に出れない、先手を取れない、カウンターも当たらない。それでもなお両の拳には爆弾を握りしめていたが、最後までそれらはくすぶり続けたままだった。

第一にこの試合、終始先にパンチを当てていたのはブラッドリーだった。特にスピード感満点の左ジャブ。WOWOW解説陣はなぜか「ブロックの上からでもジャブを突いていればペースを握っていることになってしまう」と不満気だったが、どう見てもブラッドリーのジャブは何度も何度もマルケスの顔を弾いていた。マルケスはまずこれによって継続的なプレッシャーを封じ込められた。ジャブでリズムを抑えられているので、強引に突っ込んで強打を振るったところで当たらない。逆にマルケスの方はジャブが非常に少なく、強打を当てるための伏線すら張れない状況を強いられていた。

またブラッドリーはその脚を逃げるために使っていたのではなく、それほど長い距離を保ち続けていたわけでもない。むしろ出入りの速さ、瞬間的に接近して先にパンチを当て、マルケスの反撃が来る前に離れる、そこに全神経を注いでいた。相手の打ち終わりに合わせるのが抜群に巧いマルケスだが、この日は相手に打たれてから打ち返し、その時もうブラッドリーはその場にいないということがあまりに多かった。結果的にはメキシカンファイターがスリックな黒人ボクサーにスピード負けで敗れるという伝統的パターンにハマッてしまった形だ。パッキャオのようにガンガン前に出てきて打ち合いに応じてくれる相手と、リズム、テンポを支配して打たせず打つを実践するメイウェザーやブラッドリーとでは同じように速いといっても対策のあり方は全く異なってくる。マルケスは後者に対する適応を欠いていると結論せざるを得ない。

bradley-marquez (23)

ブラッドリーは戦犯なのか

この日のブラッドリーのパフォーマンスを「塩」と形容するのは僕の考えとは大きく異なる。ブラッドリーは常に先手を取り、見栄えの良いパンチをヒットさせ、きっちりと相手を痛めつけていた。手数が極端に少なかったわけでもなく、ジャブばかりでパワーショットがなかったわけでもない。現により多くのダメージを負ったのはマルケスだ。おまけにダーティテクやクリンチもない極めてフェアでクリーンな戦いぶりだった。この試合が地味で退屈なものだったというなら、その責の半分以上は劣勢が明らかな終盤でも戦い方が変わらなかった敗者の側にある。マルケスは最終回終了間際になってようやく決死の連打を打ち込んだが、カウンターで逆に自分が効かされダウン寸前のダメージを負った。この場面が試合全体を象徴していたように思う。マルケスは外からアウトボックスされたというより全ての距離でワンテンポ先を行かれた。それでも勝つためのプランBがなかった――あるいは出せなかった。だから展開が変わらなかった。それでも勝者の戦いぶりだけを退屈となじるなら、それはフェアではないのではないか。

ではそれほどブラッドリーがゲームを支配していたのなら、なぜこれほど採点が接近したのか。メキシカンで埋め尽くされた会場の熱気にジャッジが影響されたという面はもちろんあるが、最大の要因は振り分け採点のシステムにある。微差のラウンドを振り分ける際、とりあえず強打を振るってはいたマルケスにポイントが流れるのは何もおかしなことではない。振り分け採点はブラッドリーのようなアウトボクサーを利するばかりと思われがちだが、この試合で振り分けの恩恵を受けたのはむしろマルケスの方だ。微妙なラウンドをイーブンにつけるならそれこそマルケスには振りようがなかったし、トータルダメージで勝敗を決めるなら議論の余地なくブラッドリーの圧勝だった。今の判定システムがボクシングをつまらなくしているのではないかという考えはよく聞くが、その解決策は単純なものではないということが示されている。

この日は完敗だったマルケスだが、その実力はまだまだ一級品であり当分トップ戦線に残っていられるだろう。とはいえ相手選びにはますます慎重な判断が求められそうだ。

一方のブラッドリーはビッグマッチ路線を突き進んでいきたいところだが、トップランクとGBPとの冷戦がその行く先に暗い影を落としている。今のままではメイウェザーを筆頭に組みたくても組めない相手が多すぎるからだ。つまらない対立はそろそろ手打ちにして欲しいところだが、さてはて来年の業界はどう動いていくのだろうか。

bradley_marquez_02

 

8件のコメント
  1. アラムのコメント
    http://www.boxingscene.com/arum-bradley-rios-possible-bradley-pacquiao-not-sure–70560http://

    ブラドリー対パッキャオ2は無いと、言う内容でした。ブラッドリーを中心に回すのは無理との判断でしょう

  2. ちなみにブラッドリー対マルケス戦ではマルケスが手数少なすぎでした。マルケスは好きですが、昨日は構え過ぎでした。マルケスもパッキャオに勝った事と年齢的にモチベーションが少し下がっているのかも知れません。ブラッドリーでトップランク社はビジネスする事を諦めたみたいです。米国で人気が低い、ブラッドリーの名前では客入りが悪いのが理由らしいです。個人的にメイも同じタイプ、同国なのに不思議です

    • >ブラッドリーでトップランク社はビジネスする事を諦めたみたいです。

      えーっとそれはどこ情報なのでしょうか?
      ソースを読みたいので教えて欲しいのですが……。

  3. うん permalink

    ブラッドリーは、プロボドニコフ戦のような打ち合いをして欲しかった。
    勝ちに徹してて、つまらなかった。
    またしばらく干されて、勝ちに徹したことを反省してほしい。

    • プロボドニコフ戦は滅多にお目にかかれないようなクレイジーな試合でしたねえ……。

  4. ボクシングの試合を面白くする方法は、同ラウンドでの1度目のダウン10-8 2度目のダウン10-6とダウンポイントを高くする。攻勢ポイントクリーンヒット重視(勿論ダメージポイント) あまり逃げていると反則ポイントを取られる10-9 ジャブはクリーンヒットしたものだけポイント加算(グローブの上はダメ) ボデイショットをもっと重視。スリップダウンも10-9 これは異論があるでしょうが、格闘や戦争ではそれも死に繋がる事が明白だと言う理由。スポーツボクシングよりも格闘技、もしくはルールのある決討が見たい!

    • より良い採点法についてはみんなで意見を出しあっていきたいですね。

zeeko3 への返信 コメントをキャンセル