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シベリアン・ロッキーの咆哮 アルバラードvsプロボドニコフ

2013年10月22日

ズン、ズン、ズシン。プロボドニコフのパンチは実に良い音で響く。彼は決してマティセーやゴロフキンのようなワンパンチ・フィニッシャーではないが、その拳は岩のように硬く、重い。ゆえに一発一発が容赦なく鍛え上げられた一流ボクサーの肉体に深い傷跡を残していく。ブランドン・リオスとの激闘を生き抜いたタフガイ、マイク・アルバラードとてその例外ではなかった。キャリア初のダウン、そして精魂尽き果てた上でのギブアップ。まさにアルバラードは破壊された。シベリアからやってきた無骨な男の拳によって。

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試合が開催されたコロラド州デンバー市はアルバラードのホームタウンだ。7000を超える観客席はほぼ100%が地元のヒーローを応援するローカルファンによって埋め尽くされ、そのボルテージは熱狂ぶりで知られるイギリスやアルゼンチンの観衆に勝るとも劣らない程だった。心なしかマイケル・バッファーの名調子もいつもより伸びがあったのは観客の熱気に当てられたためか? とにかく好勝負必至のマッチアップ、その立ち上がりは期待に違わぬ打撃戦となった。プロボドニコフはゴング直後から一秒も無駄にしないぜとばかりに王者に襲いかかる。アルバラードも真っ向迎え撃つ。最初の3分だけでチケット代の元は取れたようなものだろう。ちなみにファイトマネーは王者アルバラードが130万ドル、挑戦者プロボドニコフが60万ドルと充分にビッグマッチの領域だ。

2、3Rはアルバラードが脚を使ってポイントを連取する。彼の強みのひとつはかなり大きく動き回りながらでもバランスが浮つくことなく強打が打てる所であり、並のファイターならば翻弄されたまま打ち倒されてしまうだけの能力を持っている。しかしプロボドニコフはその上を行くタフガイだった。4R以降は挑戦者の強打が王者を捉える場面が増え、アウトボックスで勝利したい王者が否応なしに打ち合いに巻き込まれていくことになる。両者のビッグショットが次々と顔面に、ボディに打ち込まれていく中、先に限界が訪れたのはアルバラードの方だった。8R、プロボドニコフの連打で腰砕けになったアルバラードが更に獰猛なラッシュに飲み込まれキャンバスを這う。カウント9.5ぐらいでギリギリ立ち上がるも怒涛の追撃を浴び二度目のダウン。ここで勝負が終わっても何らおかしくはなかった。しかしこれが王者の誇りか、アルバラードは脅威の粘りでこのラウンドを生き延びる。単に耐えきっただけではなく、逆に見事なカウンターを打ち込んで地元ファンを熱狂させてみせた。まさにグレート・ファイトだ。

とはいえさしもの拳豪アルバラードもこれほど深刻なダメージを受けては逆転の芽があるはずもなかった。10R終盤に再びグロッキーにされると、朦朧とした足取りでコーナーに座り込む。レフェリーが「まだ続けたいか?」と尋ねた時、アルバラードは弱々しくつぶやいた。「NO」 劇的な幕切れでルスラン・プロボドニコフがWBOスーパーライト級の新王者に輝いた。

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戦前プロボドニコフはこう語っていた。「技術や準備は問題じゃない。これは意志の戦いだ。より強い意志を持つ者、相手の意志を破壊した者が勝つんだ」 はたしてプロボドニコフはまさしくその言葉の通りに戦い、そして勝利した。彼はアルバラードの肉体を、そして心をぶち壊した。退くことを知らない“シベリアン・ロッキー”は勝利の瞬間雄叫びを上げ仲間たちと抱き合った。

それにしてもプロボドニコフの頑丈さ、頑強さ、そして精神力には恐れ入る。アルバラードの強打は何度もルスランの顔面を捉えていた。はっきりとダメージを受けた瞬間もあった。しかし彼の肉体と精神はこの日のアルバラードを明らかに凌駕していた。アルバラードは打ち勝ちたいという気持ちとアウトボックスしたいという気持ちが結果的には中途半端に交ざってしまっていたのかもしれない。あるいは前日計量で一度オーバーし、当日18ポンドのリバウンドをマークした減量苦が戦力を削いでいたのかもしれない。しかし結論としてはそんな枝葉の話ではなく、プロボドニコフの圧力と執念がアルバラードを破壊した、とシンプルに考えたほうが良い気がする。

プロボドニコフは生粋のロシア人ではあるが、その顔立ちは明らかにアジア系のそれに近い。母親は大阪のおばちゃんにしか見えない。ただし彼はゴロフキンのように直接東洋系の血が混じっているわけではなく、古くからシベリア西部に暮らす少数民族マンシ族の一員だ。更に歴史を遡ればカザフスタンなどの中央アジアやモンゴルの人々と近い系統なのだろう。ボクシングの世界でも、あるいは日本人がさんざん国技相撲で思い知っているように、彼らはとにかく頑丈で力強い。プロボドニコフはまさにそんな骨太な力強さの象徴のような存在ではないだろうか。

生まれついてのファイターであるプロボドニコフに大幅なスタイル改造は有り得ないが、あえて改善点を探すならもう少しボディショットの頻度を増やせばいいかもしれない。この試合、強烈極まりないボディショットがアルバラードを大いに痛めつけていたが、どうも熱くなるとヘッドハンター気味になる癖があるように思う。もっと意識的にボディを狙うようにすれば一流テクニシャン攻略の糸口にもなるだろう。

それにしてもこの日のプロボドニコフは強かった。そして怖かった。はたして彼は冷徹な戦闘マシーンなのか? 恐れを知らない野獣なのか? 彼自身はこう語っている。「恐れを感じないなんてことはない。俺は怖い。どの試合でも、俺は恐れを感じる。だけどその恐れこそが俺を奮い立たせる。恐れこそが俺の最大の敵であり、俺が打ち倒さなければならないものなんだ。対戦相手は大したことじゃないんだ」

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4件のコメント
  1. うん permalink

    打ち合いで面白かったです。

  2. KOKO permalink

    ギブアップなんですか?ボクシングマスターさんのサイトでは、レフェリーがストップしたと書いてありましたが・・・
    プロボドニコフは層の厚い140、147で色んな選手とのマッチメークを夢想させるエキサイティングなボクサーですね。ブローナーとやってほしいですね。

    それにしても、アルバラードは既に130万ドルも稼ぐボクサーになってたんですね。
    彼は若くはないですが、いい選手には違いないですし、今後もお呼びがかかるでしょう。先日のクリチコVSポベト金の塩試合(これはロシア開催でしたが)見たあとだけに、ドイツボクシングとアメリカボクシングの違いを感じます。向こうはマスケやオットケなどの時代から、塩テクニシャンでも、それを楽しむ傾向が他地域と比べ強いみたいですね。クリチコはデカイし、塩、単調でもKO率は高いのだから、そりゃ人気あるわけだ・・・

    • HBOの映像では10ラウンド終了後にトニー・ウィークスがアルバラードに「続けたいのか?」と問い、アルバラードが首を横に振った直後にストップをコールする場面が放送されています。よって「ギブアップ」も「レフェリーストップ」も正解だと言えます。
      長年日陰者だったアルバラードがそんなに貰えるとはちょっとした驚きですが、この1年で彼が高めた名声と地元での大人気を思えば決して過剰なお金ではないと思います。相手次第で今度はプロボドニコフがミリオンダラーを稼ぐ番でしょう。彼らにはその値打ちがありますね。

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