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リゴンドーはなぜ試合ができないのか

2014年11月1日

ギジェルモ・リゴンドーは現代世界最高級のボクサーである。この命題に異論を持つ者はほとんどいないだろう。アマチュア時代の勝ち星は400を優に超え、2つの世界選手権金メダルと2つの五輪金メダルを獲得。プロ転向後は無傷の14連勝による世界タイトル二団体統一を果たし、まともに落としたラウンドすら数えるほどしかない。完璧な技術と緻密な戦術。機械のような精密性とジャッカルに例えられる瞬発力。およそつけいる隙の見当たらないこの男には、しかし致命的な弱点がある。試合が組めないのだ。今年7月マカオでのソッド戦以降は音沙汰なく、WBOが暫定王座の設置を決めたことが報じられた

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しかしなぜ最高峰のボクサーである彼が試合を組めないのだろうか。ファイトが退屈だからテレビ局に嫌われる、勝ち目がないから挑戦者が現れない、そのような理由が語られてきたが、普通の防衛戦すら組めないのは少々不自然だ。なにもHBO、Showtimeだけがテレビ局ではないし、世界ランクは持っていても資本力に欠ける選手は割と多い。そういう選手が安値のオファーで絶対王者に突っ込んでいくなんてケースは歴史上山ほどあったし、逆に相手側からのオファーを受けて敵地で防衛戦を行うという手もある。リゴンドーにはその手の試合でさえも組めないものなのだろうか? ここではもう少し突っ込んで彼の現状を検証してみよう。

まずリゴンドーはソッド戦にてトップランクとの三年契約を終えている。ただし彼はフリーエージェントになったわけではなく、プロ転向時点から関係を持つカリブ・プロモーションという企業と契約が続いている状態のようだ。この馴染みのない企業は一体何なのか、実のところよくわからない。何しろ公式サイトがこれである。およそプロモーターとしての実態があるようには見えないし、事実ない。トップランクとの契約終了直後、他ならぬカリブ・プロモーション自らが他のプロモーターを募っているほどだ。では彼らは一体何をしているのか? 公式な情報がないのでネット上の噂に頼る他はないが、どうもこの会社は「リゴンドーの亡命に手を回した人々が合法的に彼の稼ぎをピンハネするための組織」だという話がある。なるほどバックにこういう面倒くさい連中がいたのではやりにくいはずだ。9月にはクリス・アバロスとのWBO指名試合が入札されたが、結局アバロスはIBF王者フランプトンにターゲットを定めたためこの試合はお流れになっている。

直近の情報として米国ボクシング記者のマイケル・ウッズによる詳細な記事があるのでそちらを見てみよう。ウッズはリゴンドーのマネージャーであるゲイリー・ハイドにインタビューを行っているが、そこでは驚くような内容が語られている。ハイドによれば、英国の著名プロモーターであるフランク・ウォーレン、そして大物ラッパーのJay-Zが率いる新興企業のRocNationよりそれぞれ大きなオファーがあったのだという。RocNationのオファーはなんと3試合で計180万ドルというもので、これは軽量級の、それも不人気とされるボクサーへのオファーとしては破格の提示だ。しかしリゴンドーはいずれにも興味を示さなかったという。またハイドは「リゴンドーとカリブ・プロモーションとの契約は、トップランクとの契約終了と同時に終わった」とも語った。しかしこれに対しては当のカリブ・プロモーションの副社長ルイス・フォンセカが真っ向から否定している。「リゴはカリブと契約を結んでいる。100%だ。まだ2、3年は残っている」ということらしい。またフォンセカ曰く、リゴンドーの試合が組まれないのは他団体王者達が彼を避けているからとのことだ。

大手ボクシングニュースサイトのBoxingscene.comではこの件の続報が報じられた。ここではカリブ・プロモーションの社長ハレド・ロペスが登場し、「Mr.ハイドのコメントは全くもって不適当で無根拠」と、やはりハイドの主張を全面否定している。またロペスは他のプロモーターからの打診が合ったこと、それらがビジネスとして妥結しなかったことを認めている。カリブ・プロモーションにとって、契約を結ぶべきプロモーターとは「Sバンタム級ないしフェザー級においてトップレベルファイターに繋がるもの」でなければならないからだ。ロペスが言うには、「HBOやShowtimeが放送する価値を認めるような力量を持つ122ポンドの選手は誰もMr.リゴンドーと戦おうとしない。我々がその壁を破り、Mr.リゴンドーが求めるビッグファイトを実現するまで、いくら他のプロモーターがオファーを出せると主張した所で彼らは試合を組める立場ではない」

恐らくはこの発言こそがリゴンドー本人の意志に最も近いもので、そして彼を試合から遠ざけている最大の原因だろう。今リゴンドーが求めているものは統一戦のようなビッグマッチとそれに伴うビッグマネーだけのように見える。彼の実力なら普通の防衛戦で普通のランカーを軽 く捻ったところで仕方がない、そう考えるのは理解できるし、実際彼の前に平凡な世界ランカーを連れてきた所で勝負としての面白みは皆無だろう。しかしビッグマッチはそうそう向こうからやってくる物ではない。そもそも彼は世間でのイメージほど金銭的に不遇だったわけではなく、ドネア戦では実に75万ドルのファイトマネーを得ているし、アグベコ戦、ソッド戦でもそれぞれ47万5千ドル、57万5千ドルを稼いでいる。これは大スターではない軽量級王者としては低額ではないどころかむしろかなりの高報酬だ。トップランクは決してリゴンドーに投資をしなかったわけではないが、契約を延長しなかったということはその投資に見合う対価が得られないと判断したということ。ならば自分の価値を高めることでしかより良いステージには上がれないのが世の摂理だ。

リゴンドーと同じように「最も避けられているファイター」と呼ばれたゴロフキンを見てみよう。過去2年間でリゴンドーは3戦しかしていないが、ゴロフキンは7戦を行いその全てをKOで勝利した。次の防衛戦は来年2月、モナコでのマーティン・マレー戦が既に決定済みだ。カザフの戦士は全く時間を無駄にしていない。これこそファイターが自分の商品価値を高める最も優れた方法ではないだろうか。

ある程度の地位まで登ったボクサーがビッグマッチだけを追い求め小さな試合をやろうとしないのは現代における悪習の1つだ。多くのボクサーは実のところ自分が思っているほどの商品価値を持たないし、それを高める唯一にして最良の方法はリングに上がり続けることでしかない。リゴンドーは目の前のオファーを受けるべきだ。戦い続け、勝ち続けることでしかより大きな試合はやって来ないのだから。34歳の彼に残された時間はそう長くない。

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From → コラム

11件のコメント
  1. ボロカブサムライ permalink

    リコンド-は強いけど、HBOでの防衛戦・・・視聴率が過去最低、これではプロとしてビジネスとしてプロモーターやテレビ局が付くのは、米国では相当困難です。日本に呼んで誰かが、挑戦するとかなら勇士を見られるでしょうけど。それなりのギャラで、他のプロスポーツ 例えば野球、ゴルフ、バスケなら試合に出れるでしょうけど、ボクシングの場合、リコンドー自身が人気を持ち、観客動員を動かし、テレビ視聴率で好成績を残さないと、米国のパン食い競争ビジネスでは、どうしょうもないです。共産主義なら何とかなる?それも中国では無理

  2. カリメロ permalink

    なかなか興味深い内容でした。カリブプロモーションなんていううさん臭い会社がリゴと関係していたんですね。二度目でやっとキューバからの亡命に成功したのに、こういう運命が待っていたんだ。リゴンドーってプライドが高そうですからね。リゴンドーに限らず、ビッグマッチ、またはタイトルマッチばかりしか興味がないボクサーよりも、ノンタイトルでも目の前の試合を受け入れて続けて行ったら、わらしべ長者のようにでかいものが、自然と手に入る可能性があると思います。でも本人だけの問題で解決できないんだろうなあ。リゴンドーのボクシングは好きなんで、なんとか満足のいくボクサー人生を送ってもらいたいものです。またリゴ関係の続報があれば、記事にアップ願います。

    • 今回の記事は反響が大きいので、何かあればまた書きたいですね。ともあれまずは明るいニュースが入ってきて欲しいですが……。

  3. ユース permalink

    リゴンドーとメイウェザーの人気の差は色々要因がありますが、リング外でのパフォーマンスもかなり大きいと思っています。

    技術は2人とも超トップレベルですが、メイウェザーは試合前後のコメントも気になって試合を見る人も多いと思います。
    リング外で一切リップサービスの無いメイウェザーならここまでの人気は確立できていないはずです。
    なので、リゴンドーはリップサービスを上手なって、有名なラッパーやJ・ビーバーでも引き連れて入場すれば人気も出そうな気もします。
    そういう性格でないのはわかりますが(笑)

    個人的にはリゴンドーの試合はかなり好みです。

    • ラッパーを引き連れ手の込んだトラッシュトークをかましまくるリゴンドー……。そ、想像を超えていますね……。実際リゴンドーってプライベートでもあんなしかめっ面なんですかねえ。

  4. 投資家 permalink

    リゴンドーはアメリカで対戦相手にいくらお金を払えるの?

    キューバで生まれ育ったリゴンドーがアメリカで試合しても、アメリカ国民の殆どはリゴンドーには興味を持っていないからお金にならない。

    ロシアで生まれ育った勇利が日本で試合しても、日本国民の殆どは勇利には興味を持っていないからお金にならなかった。勇利より弱い鬼塚、辰吉、薬師寺は、もっと稼いだ。

    リゴンドーは、帰国してキューバで試合しろ。

    • 外国でキャリアを積むのが茨の道だということはみんなわかっていて、その上でどうするかというのが問われているわけで。
      キューバにプロボクシングはありませんし、そもそも亡命者のリゴンドーが帰国するなら刑務所行きは既定路線ですからね。

  5. camaro permalink

    リゴンドーは結構金カネ言って面倒な印象がありますね。
    確かに技術はあって強過ぎるけどKO狙わないから一般のファンが楽しめるはずないし、4団体もあったらわざわざリゴンドーに挑戦する必要も無い。
    でも勝てる可能性低くても挑戦したがる選手なんて山程いそうですけどね〜。

    話はちょっと変わりますが、コットがビックマッチ以外はやらね!なんて言ってたのが腹立ちます。
    コットはトラウトに負けてミドルで膝のぶっ壊れたマルチネスに勝っただけなのに何を勘違いしてるんだと。
    引退間近で金が欲しいんでしょうけど他の選手の邪魔になるような事はしてほしくないですね。

    • リゴンドーがファイトマネーにこだわるのは中間搾取の割合が大きくて実入りが少ないからでは?とか色々と推測できますが、さすがに根拠薄弱なので本文には含めませんでした。
      コットの場合、彼はお金には全く困っていませんし、特定のプロモーターに所属せず自分で自分を雇って成功している人なので縛りが全くないんですよ。ボクサーの個別事情は千差万別で、なんともややこしい業界ですよねえ。

  6. ウォルタースとリゴ希望 permalink

    “ある程度の地位まで登ったボクサーがビッグマッチだけを追い求め小さな試合をやろうとしないのは現代における悪習の1つだ”
    同意です。
    この原因は‘Money’メイウェザーにあるのかもですね。
    タッチボクシングででも勝利し、それによる無敗記録維持と複数階級制覇こそが真のボクサーとしてのステータスという価値観を広めたのも彼ですし…。同時代に2人目のメイウェザーは不要であるわけですから、似たスタイルの彼が試合を組めないのも無理はないのかなと思います。
    WBAWBCの腐敗ぶりもそこに絡んでくるでしょうけど、もう一度ボクサー一個人、チャンピオンベルト1つ、タイトルマッチ1試合の価値が何たるかを最初から見直さなければならない時期なのではないでしょうか。
    確かに常に死の危険と隣り合わせのスポーツですから、それに見合う報酬はあって然るべきですけど………。ビッグマッチとは今現在のように“試合前の”ファイトマネーの額が基準ではなく“結果”としてお客が盛り上がってこそビッグマッチでしょうし。そのお客が盛り上がるような結果を数多く重ねて来たボクサー達が臨めるのが本当の“ビッグマッチ”と思います。
    駄文失礼しました(m´・ω・`)mペコ

    • メイウェザー原因説中々興味深いですね。説得力があります。しかし本気で何が原因か検証するには膨大な資料に当たる必要があって大変そうです。各年のトップボクサーの平均試合数を数十年分プロットして、統括団体の増加とかPPVの普及などの出来事を可視化したグラフにプロットするとか……うーん、学術論文のレベルですね……。

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