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考察 パッキャオvsアルジェリ

2014年11月24日

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“I told you so”というパッキャオファンのほくそ笑みが聞こえてきそうな結果だった。この試合、なまじ玄人ほどアルジェリの地味で負けにくい巧さを評価し、パッキャオのモチベーションや35歳という年齢的な要素を加味して番狂わせの可能性を指摘する傾向があったように思う。だが終わってみればジャッジ二人が16ポイント差、一人が18ポイント差(!)を付けるという歴史的大差でパックマンが圧勝した。勝因は色々挙げられるが、つまるところ「役者が違った」ということだ。

アルジェリの戦術は非常にわかりやすく予想通りのものだった。徹底して打ち合いを避けパッキャオを空転させ遠間からジャブとカウンターでポイントを稼ぐ。前半を多少捨ててもパッキャオが後半疲れてくれば試合を支配でき、あわよくば倒せる。だがその目論見は2度のダウンを奪われた2Rに早くも崩れた。ダメージは浅くとも歯車の狂いは明らかで、9Rの致命的なダウンを含む計6度に渡って倒され勝負あり。最後は命からがら判定に逃げこむのがやっとだった。

パンチスタッツではパッキャオが669発中229発を的中させ、アルジェリは469発中の108発をヒットさせたに過ぎなかった。もちろん与えたダメージの差はこの数字どころではない。

パッキャオの代名詞たる左ストレートは、避けたと思った所からもう一段伸びてくる。そのためこれを後ろに下がって避けるのは禁じ手であり、一般にサイドに逃げることが最良とされる。パッキャオもそれはわかっているので、逃げる相手に合わせて右フックをぶつけるなどキャリアを積むに連れて攻撃の幅を広げてきた。それでもこの試合、決め手になったのはやはり最大の武器左ストレートだった。

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まず最初の「大きなダウン」である6R1度目のダウンを見てみよう。中間距離でまずアルジェリが左フックを振る。当たればサイドにポジションを変えながら更に追撃が打てる、対サウスポーにおける常套手段だ。しかしパッキャオはほんの一瞬遅れて左ストレートを突き刺しこれがアルジェリのフックより早く相手に到達、腰砕けになった挑戦者は続く連打で崩れ落ちた。このストレートを打った時パッキャオは全く踏み込んでいない。それどころか右ジャブも出さず、予備動作なしでまっすぐコンパクトに左を突き出している。一見すると強打には見えない動きだが、これが強いし何より速い。相手までの最短距離を走るというストレート最大の長所が活きた場面だった。

そう、パッキャオの左ストレートといえばあの猛禽類のような恐ろしく長く鋭い踏み込みが必ずワンセットで思い起こされるが、実はパッキャオは踏み込みなしでも近い距離から強烈な左ストレートが打てるのだ。

試合を決定づけた9Rのダウンも6Rと似たような、ただし少し異なるシチュエーションだった。比較的近い距離でパッキャオが右を軽く伸ばす。アルジェリは左が来ることを予見し、左フックを引っ掛けつつ体を回して華麗にサイドターン……するはずが、予想以上に鋭く伸びてきた左をまともに食い仰向けにダウン。カウントアウトされてもおかしくないような(というよりそうするべきだった)致命的ダウンだった。ここでパッキャオはまっすぐ前方に左を伸ばすのではなく、やや斜め内側に斬り込んでいる。アルジェリが自分から見て右に回ることをあらかじめ織り込んでいたからこその動きだ。なにしろアルジェリはパッキャオの攻勢に対して左フックを振りながら左に回るか、右ストレートで出鼻を叩きながらやはり左に回るか、というワンパターン化に陥っていたから、パッキャオ側の対応策は実に明白だった。逃げる相手に合わせた角度で左をぶち込めばいいのだ。もちろんアルジェリのようなスピードランナー相手にそれが出来るのはごく限られた人間だけではあるが、超人パックマンにかかってはこの男も単調なマラソンマンになってしまったということだ。

さて結果的にレフェリングの拙さもあって5年ぶりのKOを逃したパッキャオではあるが、年齢的な衰えらしきものはついぞ見られなかった。相手が怖さのないアルジェリだったということもあるが、攻めっぷりの良さは至って健在。まったくもってバケモノそのものだ。そんなパックマンに残された仕事は、もはや“あの男”との対決しかないのでは……ここに来て再びそんな声が大きくなってきている。もはや口にするのもためらう“あの試合”ではあるが、今再び水面下の動きが始まっていることは確かなようだ。あるいは今度こそひょっとしたらひょっとするのか???

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