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それでもメイウェザーvsパッキャオが実現する理由

2015年1月26日

Mayweather-Pacquiao

「世紀の一戦」の実現が危ぶまれている。最初に対戦が取り沙汰されてから早5年、今月初めにはついにこれまでで最も決定に近づいたとの報道がなされながらそこからの進展は伺えず、近頃聞こえてくるのは後ろ向きな情報ばかり。やれメイvsコット2だのパックvsカーンだのといった「プランB」が話題に上り、多くの人々が悲観論に傾きつつある。

それでも僕はあえて「メイvsパックは実現する」と希望を持ちたい。もちろんインサイダーでもない限り真相は不明だが、今出回っている情報で過度に悲観的になるのは早計に思える。ここでは膨大な報道や噂話の中から自分のロジックに都合の良い物だけを選りすぐり(笑)、なぜこのメガファイトが実現するのかを3つの事実と3つの考察から明らかにしていこうと思う。

事実1:メイウェザーはサインを拒否していない

契約が未だに成立していないのはメイウェザーが渋っているからだという認識が広がっているが、これは誤りのようだ。まず1月9日に両陣営が「ラスベガスMGM開催、及び薬物検査について」合意に達したと報じられる。薬物検査は2009年における最初の交渉劇で破談の原因になった項目であり、ここが合意に達したことは極めて大きな前進とされた。その後16日にパッキャオが開催日やファイトマネー等を含めた全ての内容を承諾したとの報が流れ、後はメイウェザーのサインを待つのみかと思われた。しかしどうやらそれは早とちりだったらしい。交渉の中心人物の一人であるShowtimeスポーツ部門担当上級副社長のステファン・エスピノサは自身のTwitterにて、「何にサインするんだい? まだ契約書も発行されていないのに」と回答している。

契約書が存在していないなら確かにメイウェザーがサインを渋っているとは言えないわけだが、だとしたら今現場では何が行われているのだろう。なぜ契約書が未作成なのだろうか?

事実2:現在のステージはHBOとShowtimeによる交渉に移行した

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実はもう両陣営同士の交渉はほぼ終わっているという見方がある。ファイトマネーの分配、薬物検査の詳細な内容、使用するグローブの種類等々、多岐に渡る項目はすべて両陣営の合意に達したか、それに近い状況にあるというのだ。しかしこのウルトラビッグマッチには通常とは異なる問題が横たわっている。契約しているテレビ局が異なるということだ。パッキャオはHBO、メイウェザーはShowtimeとそれぞれ複数試合の契約が残っており、ここは簡単に譲れない。もっと小さな規模の試合であれば片方がもう片方にいくらか包んで手打ちとなるが、この試合はそんなレベルを遥かに超えている。

そこで現在、両TV局の首脳クラスが密に協議を重ねている最中らしい。エスピノサが24日にL.A.Timesに語った所によれば、「契約書はできていない。ShowtimeとHBOとの間にはまだ解決すべきオプションが残っており、議論は続いている。しかし我々は大きな前進を果たしているし、フロイドはこの試合を成立させたいという明白な意思を示している」とのことだ。

実は両局はかつてボクシングの「合同放送」を行ったことがある。2002年のレノックス・ルイスvsマイク・タイソンがそれだ。今回もその前例に基づき交渉が進められており、ここが決着次第正式な契約書が発行されると見られている。全てはまだ進行中と見ていい。

事実3:メイウェザーのプランBは勝算がない

Mayweather v Marquez News Conference

交渉成立の可能性が高いか低いかに関わらず、もしもの時のための代替戦略(プランB)を用意しておくのはビジネスとして当然のことだ。最近の報道によれば両陣営ともきっちりと代わりのマッチメイクを用意している。パッキャオは5月30日にアミール・カーン戦、メイウェザーはパッキャオ戦のターゲットと同じ5月2日にミゲール・コットとのリマッチを仕込んでいるという話はもはや秘密でも何でもない。しかしこのプランが現実になれば、特にメイウェザーの方は非常に苦しい事態に陥る。同日にカネロ・アルバレスvsジェームス・カークランドが行われると発表されたのだ。

もともと5月2日という日付はメキシコの記念日シンコ・デ・マヨに合わせて設定されたもの。特にメキシコ系アメリカ人の間で大イベントに成長したシンコ・デ・マヨ直前の週末には偉大なJ.C.チャベスの時代からボクシングのビッグマッチが行われる伝統が続いており、近年ではメイウェザーが3年連続でこの黄金週間を確保している。メイウェザーは当然とばかりに今年もこの日を狙っていたが、これに異を唱えたのがカネロだ。「シンコ・デ・マヨはメキシカンのもの」と主張するこの若者は当初コット戦をこの日にぶつけることを企図し、それが流れるとすぐにカークランド戦を成立させて勝負を仕掛けてきた。もちろんメイvsコット2はカネロvsカークランドよりも大きな試合だが、

  1. パッキャオ戦を回避すれば激しい世論の反発が巻き起こりPPVボイコット運動が勃発することは必至
  2. カネロvsカークランドはPPVではなく通常放送。特にメキシカン視聴者は間違いなくこちらに流れる

という2点により、メイvsコット2は破滅的な売上に陥ることはほぼ間違いない。かといって5月2日を避ければメイウェザーはパッキャオのみならずカネロからも逃げたと嘲笑され、彼のプライドは致命傷を負うことになる。事実上、メイウェザーのプランBは既に死んでいる。

一方で無事メイウェザーvsパッキャオを実現させれば、とても勝ち目のないGBPはカネロvsカークランドを別日に移動させると見られている。

考察1:彼らはなぜ飛び回っているのか

パッキャオとヘンリー王子

パッキャオとヘンリー王子

人生最大のビッグマッチが交渉大詰めとなればボクサーはどうするだろうか。今か今かと吉報を待ち電話の前でそわそわと待つというのはいかにもありそうだ。代理人には任せておけぬと議論の現場に居座ろうとするかもしれない。では海外旅行に行ったり試合に無関係のイベントにほいほい顔を出すのはどうだろう。それはあんまり自然ではない気がする。ではここ最近の二人の行動を見てみよう。

パッキャオの場合

  • 1月20日、ロサンゼルスにて自身の半生を追ったドキュメンタリー映画『Manny』の完成披露プレミアに出席
  • 1月23日、ロンドンにてヘンリー王子と晩餐会を楽しむ。アミール・カーンと雑談
  • 1月25日、フロリダにてミス・ユニバース2015の審査員を務める

メイウェザーの場合

  • 1月6日、所有する高級車やプライベートジェット機をズラリと並べた写真を公開しネット上で話題になる
  • 1月22日、ロサンゼルスにてNBA公式戦を観戦中、観客から「Fight Pacquiao!!」の大合唱を浴びる。メイウェザーはこれ以前にも先月から今月にかけてロサンゼルスのNBA試合会場に出没している
  • 1月27日からオーストラリア主要三都市にて詳細不明のメディア・イベントを開催
NBA試合会場にて。メイの3つ隣に座っているのは最近ボクシングプロモーター業を始めたばかりのJay-Z。これは一体?

NBA試合会場にて。メイの3つ隣に座っているのは最近ボクシングプロモーター業を始めたばかりのJay-Z。これは一体?

何をやっているのだろうか彼らは。見ていてなんだか丸っきり緊張感が感じられない。加えて上記のイベントのほとんどは先月末から今月頭にかけて急遽決まったもの、もしくはつい最近いきなり飛び出してきた話ばかり。つまり全てはメイvsパックの交渉がある程度進んでから始まっているのだ。一見バラバラに見えるこれらの出来事、要するに全て話題作りのための「仕込み」なのではないだろうか? だとすればもう一つの疑問が生まれる。メイvsパックは、何も宣伝しなくても全ボクシングファンが注目する究極のビッグマッチ。搦め手を尽くして必死にアピールする意味がどこにあるのだろう?

考察2:ターゲットは非ボクシングファン

その答えはこれらのイベントの報じられ方を観察すれば見えてくる。映画『Manny』のニュースは当然映画関連のマスコミに多く取り上げられ、普段はボクシングに関わりのないHollywood Reporterなどのエンタメ系メディアがパッキャオのメイウェザー戦アピールを報じた。ヘンリー王子との会食は英国中のメディアが注目した。ミス・ユニバースの放送では本来一生ボクシングに縁がないような多くの若い女性視聴者達がパッキャオ・スマイルを目にすることになった。メイウェザーの金持ち自慢写真は地味に日本のアフィリエイト系まとめサイトでも話題になり、豪州訪問が発表された時には彼の犯罪歴を理由として入国拒否すべきだとの論調が当地の一般紙に踊った。

そう、彼らはボクシングメディアではなくそれ以外のメディアに注目されるよう巧妙にイベントを選択している。このメガファイトをもはやボクシングファンに宣伝しても仕方がない、ならば狙うは外の世界というわけだ。ただしこの戦略は万が一この試合が不成立になった場合はすべて逆風に変わる。せっかく耳目を集めた一般層に「ボクシングってアホらしい世界だな」と思わせてしまうのがオチだからだ。

そして一般層をターゲットにした戦略は他の場面でも徹底されている。今回、交渉について当事者からの最新情報は実はボクシングメディアよりむしろ一般メディアから出てくる傾向がある。上記の事実2の項に登場したL.A.Timesは全米4位の発行部数を持つ日刊紙だし、また時にはAP通信を通じてコメントが出されたこともあった。既存のボクシングメディアは少なくない場面で後手に回っている。全ては大手メディアに取り上げられることで一般大衆への露出を最大化するためだと考えれば辻褄は合う。

考察3:最もインパクトのある発表方法とは

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メイウェザーは現在特定のプロモーター傘下にはいないが、事実上彼のボスはあのアル・ヘイモンだ。そのヘイモンは地上波NBCと組んでの新ボクシング・シリーズ「PBC」を3月から開始する。そして今年NBCはあのNFLスーパーボウルを放送する。もしメイウェザーvsパッキャオのPRがスーパーボウルの放送で流れたとしたら、それは全米1億人以上の視聴者に向けた最大にして究極の宣伝になる。ヘイモンの資金力、そして彼のNBCとの親密ぶりを考えればこれはもはや丸っきりの絵空事ではない。ズバリ、正式発表のXデーは2月1日スーパーボウルの直前ではないだろうか。

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8件のコメント
  1. geppei permalink

    専門家を超えた読み、お見事でした。

  2. camaro permalink

    いまやらねばいつできる。
    わしがやらねばだれがやる。
    という平櫛田中の言葉を思い出しました。
    本当に実現してほしいです。

    • 勝負論的には5年前が最高の時期だったかもしれませんが、世の機運という意味では「今」こそが究極のピークだと感じ始めています。まさに「いつやるの?今でしょ!」と言うべき時ではないかと。

  3. yas permalink

    すごい熱ですね。僕も何とか決まって欲しいと思ってますし、これが決まらないことはボクシング界が「終わりの始まり」に突入することを意味するのではないかと心配します。ただでさえ、ヘイモンやらロックネイションやらが現れて、昔の女子プロレスみたいボクシング界が分裂しそうなので。
    僕の予想は米国内での発表ならスーパーボール後1週間以内、グラミー賞までじゃないかなと。スーパーボールは世界最大級のスポーツイベントで、NBCとしては巨額投資を回収すべく、がっつり儲けなければならないので、ボクシングの告知をしている余裕は無いと見ます。加えて、NBCはSHOWTIMEの親会社CBSのライバルでもあるのでライバルを立てることは、仮にヘイモンの頼みがあったとしても、しないのではないでしょうか。確かに「ミスユニバース」はNBC案件なので、その布石としてNBCがパッキャオを仕込んだという見方もありますが…まぁ、放送局からの発表なら主催局がするでしょうし、スーパーボール前のアメフト一色の中にボクシングの話題を放り込む勇気はないと思います。
    次の可能性はメイウェザーが豪州遠征時に発表するというパターンで、これならありそうな気がしますが、豪州って結構辺境の地だし、米国に話題が伝わったとしても、スーパーボールの絡みで番組で取り上げる尺は相当短くなりそうです。なので、スーパーボール後、一週間を期待したいと思ってます。
    いずれにしても決まって欲しいです。そして、コメントにあるように2戦やって欲しいです。

    • ヘイモンの影響についてはまだ考えがまとまっていませんが、いずれは記事にしようかと思っています。ただおっしゃる通りこの試合の不成立が業界に与える負の影響は半端ではないので、ここはなんとしても成立してもらいたいものです。
      発表時期に関してはもう蓋を開けてみないことにはって感じですね。僕はただ胸をいっぱいにして待つのみです……。

  4. 匿名 permalink

    あと2戦。初戦とリマッチ、これ以外の選択肢はないくらい、いろいろな面でいい話だと思いますよね。あと2戦、逃げても晩節を汚すしもうからない。彼も充分承知と信じてます。まあ逃げてるわけでは無いかもしれませんが。

    • 真実はメイのみが知るといったところでしょうか(^_^;)
      単純にメリット・デメリットを突き合わせればここでやるしかないとは思いますけどね。

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