続々襲来・ロンドン金メダリスト達
中国のツータイム・ゴールドメダリストであるゾウ・シミンのプロ転向は大きな驚きを持って迎えられた。日本の村田諒太のプロ入りもまた日本スポーツ界きってのビッグニュースとなった。今、ロンドン五輪の頂点を極めた男たちが次々とプライズファイトの世界に足を踏み入れつつある。男子10階級の金メダストのうち実に7人までもがプロ転向を決断したのだ。そういうわけで数年後の業界地図を確実に塗り替えるであろう彼らの顔ぶれを今一度振り返っておこう。なお階級表記はロンドン五輪でのものであり、プロでの活動階級とは必ずしも一致しない。
ゾウ・シミン(ライトフライ級/中国)
中国史上初のボクシング金メダリストにして五輪連覇を成し遂げた英雄。そのアマルールに特化した独特のパワーレススタイル、81年生まれという年齢の高さ。あらゆる意味でプロ向きではないと考えられていたが、今年4月ボブ・アラムのプロモートの元マカオで電撃デビューを果たす。その両肩にかかった期待はリング内でのパフォーマンスに対してというよりむしろ来るべき中国市場開拓の尖兵としての役割のほうが大きい。しかしあの変則ボクシングが上位クラスにもそのまま通用するのであれば意外な旋風を巻き起こすかもしれない。名匠フレディ・ローチの手腕にも注目が集まる。
ルーク・キャンベル(バンタム級/イギリス)
地元英国に金色の栄冠をもたらした童顔の26歳。金メダルが地の利によるフロックでないことは世界選手権準優勝、欧州選手権優勝という実績が証明済みだ。プロではまだ2戦をこなしたのみだがその正統派アップライトスタイルの完成度はかなり高く、近い将来王者クラスにとっても大きな脅威となりうる攻防兼備のバランス型。不安点は英国選手としては階級が軽いという事実が人気面で及ぼす影響ぐらいか?
ヴァシル・ロマチェンコ(ライト級/ウクライナ)
言わずと知れたアマチュアボクシング界の生ける伝説、パウンド・フォー・パウンドがこの男。五輪、世界選手権をダブル2連覇というのは常軌を逸したキャリアだ。そのアマ戦績は396勝1敗。これは書き間違いではない。自信溢れるロマチェンコ陣営がプロデビュー戦に選んだ相手は25勝3敗のメキシカン ホセ・ラミレス。直近の試合ではレイ・バウティスタに敵地で判定勝ちを収めた正真正銘の世界ランカーだ。勝てば同日行われるサリドvsクルスのWBOフェザー級王座決定戦の勝者への挑戦が既定路線となっている。プロ2戦目での世界王座獲得となればこれはもちろんセンサクの3戦目を上回る世界記録。彼がこれほど早いステップアップを望む理由は単にアマでの実績によるものだけではない。マイク・タイソンに影響を受けたそのファイトスタイルが既に極めてプロ向きに完成されているからだ。求められるスタイルチェンジの質と量が小さいならば肩慣らしのためのチューンナップバウトなど必要ない、ロマチェンコはそう確信している。前人未到の領域に挑むアマチュア界のキングオブキングスが一体何を見せてくれるのか、興味は尽きない。
村田諒太(ミドル級/日本)
今更村田についてあれこれ書いても皆さん耳タコだろうから基礎的なところから繰り返しはしない。ただし不安点はある。フジテレビの全面バックアップを受け全試合地上波生中継が予定されている村田のマッチメークは、ある意味極めて強い縛りが掛けられているということだ。プロキャリアの初期からこうした環境に身を置くことが長期的に良い結果をもたらすかどうか現段階では何も言えない。もちろん最重要は村田本人の力量だが、帝拳とトップランクの手腕も大いに試されている。三迫ジム? あああったなあそんな名前……。
イゴール・メコンツェフ(ライトヘビー級/ロシア)
現アマチュア界最強のビッグパンチャーと言えばこの男。新WBO王者コヴァレフといいこの辺りの階級でロシア人は滅法強いが、中でもメコンツェフは怪物的存在だ。間違いなくプロでも即戦力として通用するだろう。不安点は今年で29歳とやや高齢なことだが、だからこそスピード出世が期待できる。なおこのメコンツェフを含めプロ入りを表明した金メダリスト7人のうち実に4人までもがトップランクと契約。アラムの海外進出計画がボクシング界に小さからぬ波をもたらしているのは確かのようだ。
オレクサンドル・ウシク(ヘビー級/ウクライナ)
盟友ロマチェンコに追随しトップランク入りすると見られていたが、結果的には母国を代表するプロモーションであるK2(クリチコが二人の意味)と契約を結んだ。ホラー映画的なインパクトのあるルックス、タフで頑強なファイトぶり。実にプロ向きでエキサイティングな要素が詰まっている。ただししばらくはウクライナを拠点として活動することを考えると、広く世界の人々の目に触れるのは当分先の話になりそうだ。とりあえず目つきヤバイ。
アンソニー・ジョシュア(スーパーヘビー級/イギリス)
プロデビュー戦を終えたばかりで早くもポストクリチコ時代の本命とまで目されつつあるナイジェリア系イギリス人の超新星。初めてグラブをはめてから金メダルを獲得するまでに要した時間はわずか4年にすぎない。まだまだ技術的には荒削りながら198センチ104キロのヘラクレスボディー、その巨体に見合わぬ躍動感と俊敏さ、槍のように突き刺さるジャブと爆弾のような右、端正で精悍なルックス。およそスターに求められるすべての要素が詰まっている大器の中の大器だ。はたして彼は母国の大先輩レノックス・ルイスの再来なのか、それともオードリー・ハリソン2世なのか? その大きな背中にはもっと大きな期待が背負われている。