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考察:ドネアvsウォータース

2014年10月23日

ノニト・ドネアの鮮烈なノックアウト負けは、とりわけ日本のボクシングファンに大きな驚きと落胆をもたらした。長谷川穂積を打ち破ったモンティエルを切り伏せ、切り札たる西岡利晃を粉砕したアジアの雄は、日本における人気と評価という点で他のどんなビッグネームにも劣らない存在だった。そんなドネアもリゴンドーに敗れて以降の2戦が不出来だったことは論を待たないが、戦前から危機を予想されたウォータース戦におけるスピードと切れ味は素晴らしいものだった。ドネアは敗戦後「これほどハードに練習した事は今までになかった」と語ったが、恐らく本当だろう。避けられなかったモチベーションの低下に対し、自らの尻を鞭で叩くように奮い立ち本来のスタイルを取り戻したことが序盤2ラウンドのめまぐるしい攻防から存分に伺える。その左フックには火薬が宿っていた。

しかしドネアは完敗を喫した。しかもその敗因は戦前に危惧された体格差、フィジカル差によるものだけではない。驚くべきことにジャマイカの斧男は、技術面においてもフィリピンの閃光を傷めつけてみせた。

nonito-donaire-vs-nicholas-walters-09-photo-by-naoki-fukuda

ニコラス勝因の第一はジャブ。コンピュボックスのスタッツによればウォータースは162発のジャブを打ち44発を命中させた。一方ドネアは59発中のたった4発を当てたに過ぎなかった。あまり自分からはジャブを出さず相手のそれを誘って後の先を取るのはドネアの常套手段だが、今回はそういう問題ではない。ウォータースは身長より6インチ(約15cm)も長い185cmものリーチを大いに活かし硬質なジャブを刻み続けた。単に射程が長いというだけでなく、残した方の右腕が上体をすっぽりガードしているためドネア得意の左フックカウンターを打ち込む隙間がほとんどない。すると左フックに注意を払う必要がないので、あとは右クロスカウンターをスウェーバックで避けることに徹すればほとんど安全圏からジャブを刺し続けることができる。その上そのジャブ自体が槍のように速く、強い。試合後のドネアの右目周辺は真っ赤に腫れ上がっていた。

第二の勝因はディフェンス。腕が長いからガードが堅いというのは当然として、ウォータースのボディワークの巧さはサプライズだった。先述した右クロスカウンターに対するスウェーバックもそうだが、接近戦でのダッキングや細かいヘッドムーブが驚くほど巧い。この辺りはプロ入り以来本拠地としてきたパナマの軟体ボクシングに学んだ部分でもあるのだろう。圧巻は第5ラウンド、もはや遠距離戦では勝ち目なしと腹をくくったドネアが足を止めての接近戦を挑んできた際に真っ向打ち勝ってみせた場面だ。この時のウォータースのパンチ回避の素晴らしさは特筆に値する。常に細かく頭の位置を変え、それでいてガードをさぼらず打ちながらカウンターに備える。また左肘を嫌らしく伸ばして距離を取る小技はメイウェザーに学んだものだろう。一方でドネアはこの相手を向こうに回して正直に過ぎた。2ラウンド終了間際にウォータースが防御無視で強引に仕掛けてきた際には見事な左フックカウンターを打ち込んでみせたが、以降手綱を引き締めたウォータースが同じチャンスを与えることはなかった。

攻撃面においてもニコラスは斧男の異名から受ける印象を裏切るかのようにテクニカルだった。腕力任せのビッグパンチが強いのは当たり前、それプラス内側から鋭く切り込むストレートが打てる。至近距離でコンパクトに刺さるショートフック、ショートアッパーが打てる。最初のダウンはストレートとフックに目を慣れさせ、釣りのジャブからダッキングを誘って不意打ちでアッパーを突き上げたもの。この古典的な手がドネアほどの相手に通用したのは個々のパンチのクォリティがそれだけ高いからだ。それでいてフィニッシュを決めたのはあだ名通りの“アックス”パンチ。これは大きなスウェーとステップで退がりながら空中で重心を前に戻し、着地と同時に豪腕を上から叩きつけたもの。素人打ちに見えて凡人には決して真似できない。付け加えておくなら、ドネアはこれまでのプロキャリアで一度も膝をついたことはなかった。

nonito-donaire-vs-nicholas-walters-10-photo-by-naoki-fukuda

かくして一夜にしてボクシング界のメインストリームに踊り出たウォータースだが、どんな才能ある選手でも一試合でその力を正しく評価することは難しい。意外な相手に意外な弱点をさらけ出す可能性は常にある。早くもWBC王者ジョニー・ゴンザレス陣営との交渉が始まっているとのことだが、この超デンジャラスパンチャー同士の統一戦、実現すればどう転ぶだろうか。

また敗れたドネアはSバンタム級での再起を表明している。こちらも決して力を失ったわけではないだけに今後の挽回に期待したい。

4件のコメント
  1. camaro permalink

    ドネアの試合、視聴者も多くまたチャンスが与えられそうですが、とりあえずはゆっくり休んでほしいですね。
    再起はSバンタムらしいんで、いきなりタイトル戦はやめて格下にでも派手なKO勝ちして勢いに乗ってもらいたい。

    • なんだかんだで格下相手のアピール試合は必要ですよねえ。

  2. 匿名 permalink

    ドネア完敗でした・・・根本的なフィジカル、パワーでフェザー級としては1級品で無い事を、証明しました。こんなんでSフェザー級チャンピオンのサリドとやるとボコボコにされる所でした。ドネアはSバンタム級で、再度チャンピオンになれば、良いマッチメイクが待っています。リコンドーはジョニゴン戦をやりたいそうですが、テレビ局が金にならないとの事で、無視・・・ジョニゴン側も興業的に困難との発言 やはり米国のテレビ局やお客さんに、無視されるとプロとしては難しいです。その点、ドネアはKO負けしたとは云えやるだけの事を、やっての敗北なので、米国ファン、日本ファン、フィリピンファンに見捨てられてないでしょう

    • 今回のような動きとファイトができるならドネアの商品価値は間違いなくなくなりません。まずは再起戦で絶妙な相手を選んで強さを見せてくれることに期待します。でもその前に心ゆくまでゆっくりと休んで欲しいですが。

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